「給食費未納問題」で問われるべきは文部科学省のモラルだ
新聞報道が気に入らなかったので、ちょっと元データをあたってみた。
新聞各社のトーンが似ていたので、まさかとは思ったが、どうやら諸悪の根源は文部科学省にあるようだ。
たまたまブクマした産経の記事をベースにする。
全国の小中学校の給食費未納額が平成17年度に計22億2900万円にのぼることが24日、文部科学省が初めて実施した調査で分かった。未納者数は9万9000人。
この調査の公式な元データについては、「http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/01/07012514.htm」にある。
未納理由について約6割の学校が「保護者としての責任感や規範意識」に問題があると答えており、経済的に余裕がありながら給食費を払わない保護者の存在が改めて確認された。親のモラルが問われている。
ダウト。まぁ、趣旨的には問題がないって言えば問題がないんだが、元データでは、「3.学校給食費の未納に関する認識 (1)児童生徒ごとの未納の主な原因にについての認識」の表がこれに当てはまると思うんだが、この表単位は児童生徒数なのだ。
つまり、約6割の学校ではなく、未納児童生徒の6割59,407人が正解。
さらに付け加えると、この調査項目はあくまでも「アンケートの回答者がどう思っているか」ということを回答したに過ぎず、「給食費を払わない保護者の存在が改めて確認された」というわけではない。これについては後述。
調査によると、学校給食を出している国公立私立の小中学校3万1921校のうち約43%の学校で未納が発生。未納総額は全体の0.5%にあたる22億2963万円だった。16年度以前や18年度にも未納があることから、実際の未納額はこの数倍に膨れあがるとみられる。未納の児童・生徒数は、全体の1%にあたる9万8993人。
記事中唯一比較的まともな部分。でも、ここもぼんやりしていると
- 「学校給食を出している国公立私立の小中学校3万1921校のうち約43%の学校で未納が発生」⇒半分近いのか!!
- 「22億2963万円だった。16年度以前や18年度にも未納があることから、実際の未納額はこの数倍に膨れあがるとみられる」⇒100億くらい未納かもしれないのか
などと、思ってしまうかもしれない。だが
- 一人でも未納者がいれば、43%に含まれる
- 継続した調査がないので、膨れ上がるといえるかどうかの裏づけなし。
という疑問がある。
だいたい、給食費の収支なんて、毎年の決算報告から分かりそうなもんだが。そういう収支のチェックをいまさらしてびっくりしているなんて、どうみても管理の怠慢です。本当に(ry
また、49%の学校が「未納が増えた」と答え、「減った」(11.8%)を上回った。未納のある学校の60%が「保護者としての責任感や規範意識」が原因とみており、69%が未納増加の原因とみている。「保護者の経済的な理由」による未納は33%だった。
このデータは、「3.学校給食費の未納に関する認識 (2)過去数年の未納児童数闇能楽の推移について」が相当する。各選択肢の内訳を小中の合計だけ引用すると
区分 | 学校数 | 割合 |
---|---|---|
かなり増えたと思う | 18,814 | 13.0% |
やや増えたと思う | 5,006 | 36.0 |
変わらない | 5,451 | 39.2% |
やや減ったと思う | 1,233 | 8.9% |
かなり減ったと思う | 403 | 2.9% |
合計 | 13,907 | 100% |
こんな感じ。ちなみのこの数字、記事中には触れられていないが、「学校給食費が未納の児童生徒がいた学校」が母集団であることにも注意。
つまり、以前は未納があった学校のうち調査時点で未納がなくなった学校は、「かなり減ったと思う」という回答をするはずなのに、ここには含まれていないわけで、「増えた」寄りに母集団が偏っている可能性が高い。
後半のデータは、「3.学校給食費の未納に関する認識 (3)未納が増えたと思う原因について」から。このデータのは、上記回答で「増えた」と回答した6820校が母集団だ。こちらもあくまでも回答者の印象に過ぎない点に注意。
給食費を支払えない貧しい家庭が依然としてある一方、未納の保護者の半数以上が「払いたくないから」と給食費の支払いを拒んでいることも分かり、親のモラルの低下が浮き彫りになった。
この文章は完全に捏造。「あるある」と同じ構図ですな。だってこの調査、保護者が本当はどうなのかについてはまったく調べていないもの。だからこの文章には事実の部分はない。しいて書くのならば、
給食費を支払えない貧しそうな家庭が依然としてある一方、未納の保護者の半数以上が「払いたくないから」と給食費の支払いを拒んでいる様に思われていることも分かり、「親のモラルの低下」という印象を持つ学校関係者が増えていることが浮き彫りになった。
と書くべきだ。
未納率を県別にみると、沖縄県(3.8%)、北海道(1.4%)、宮城県(1.1%)の順に高かった。最も低かったのは、富山県と京都府の0.1%。
これもなぁ。この文章の流れだと、沖縄や北海道のモラルが低いように見えてしまう。実際には各都道府県の失業率とか倒産件数とかにより相関があると思うんだけど。
ちなみに、ここで挙がっている数字は金額ベース。学校数ベースだと「沖縄(70.0%)、埼玉(67.3%)、茨城(62.1%)」、児童生徒数ベースだと「沖縄(6.3%)、北海道(2.4%)、宮城(1.9%)」となる。(元データの最終頁の表より)
さらに。
そもそも文部科学省のこの調査そのものが非常に胡散臭い。
まず未納の定義が問題。
給食費って普通は毎月払う。が、この調査では「一回も払っていない人」と「1回払わなかった人」を区別しているようには見えない。つまり、「たまたま忘れてそのままになっている」、「3月に間に合わなかったが4月に3月分も払った」といった人たちも未納として扱われている可能性がある。
つぎに、その規模の問題。
22億円とか10万人とか言うと、普通の人にはびっくりする数字だ。だがよく読んでみると、それぞれ全体の0.5%,1%に過ぎない。
つまり、「理由はどうあれ給食費を払っていない人」は「3クラスに一人いるかいないか」、未納の金額は給食実施校1校当たり年間7000円7万円弱、未納者のいる学校だけに限定しても年間1600016万円ちょっとでしかない。しかもこれは年額だ。
追記:man様のコメントでの指摘を受けて計算しなおしました。オーダで間違ってました。恥ずかしーー。ご指摘ありがとうございます。こういう記事でこういうミスは致命的。深くお詫びします。
- 平均未納額の計算式は以下のとおりです。
7万円、16万円ということになれば、多いか少ないか微妙だ。まぁ、専従の徴収係を設置するほどのことではないとは思うけど、人によっては「けしからん」と思うかもしれない。
- 追記ついでに児童生徒一人当たりについても計算してみる。
- 給食費総額(\421,236,201,000)/児童生徒数(\10,033,348)=41,983.6131円/人
- 未納総額(\2,229,638,000)/未納児童生徒数(\98,993)=22,523.1885円/人
「ぜんぜん払っていない」かのように報道されていた未納児童生徒だが、実態は半分くらいは払っている(1か月分くらい未納の人がかなりいる)ということが分かる。ここでも印象操作の気配が濃厚という訳。
さらにこの数字には「経済的に支払えない」児童生徒も含まれていることを忘れてはいけない。つまり「モラルの低いどうしようもない馬鹿親」は実際には非常にまれな存在ということになる。
また、たったこれっぽっちの児童生徒・金額ために、教師やPTAが何らかの活動をしなければならないとすれば、それは非常に愚かな行為だとおもう。多分必要な人件費はその10倍 数倍はかかるだろう。
未納の原因もまったくのでたらめだ。
産経の記事でも指摘したが、この調査における未納の原因はすべて「回答者の印象」を選択しているに過ぎない。未納者の年収の比較とか、課税状況とかそういうデータとつき合わせたりしていないのだ。
それだけならまだしも、
※その他の例:
原因が「保護者としての責任感や規範意識」又は「保護者の経済的な問題」のいずれか明確に判別ができないため「その他」を選択した例がほとんどである
とかわざわざ注釈したり(「3.学校給食費の未納に関する認識 (1)児童生徒ごとの未納の主な原因にについての認識」)、自由記述・複数回答の質問項目(「3.学校給食費の未納に関する認識 (3)未納が増えたと思う原因について」)なのに「保護者としての責任感や規範意識」と「保護者の経済的な問題」の2つにきれいに分けてあったりと、恣意的にデータを操作している気配すらある。
そもそも「保護者としての責任感や規範意識」又は「保護者の経済的な問題」が何を意味するかを各回答者が共通認識を持っていたかも疑問だ。
「内臓を売ってでも給食費を払え」と思っている人が回答していれば、仕事上自家用車がないと生活できない未納保護者は「給食費よりもガソリン代を優先している」として「保護者としての責任感や規範意識」が欠落していると思いかねないわけで、この調査方法はまったく意味がないと思う。
「○○教育財団」ならまだしも、文部科学省がこんな調査しちゃいけないだろ。
・・・
というわけで、こんな捏造調査を実施して「親のモラル低下」を印象付けようとした文部科学省と、その発表を鵜呑みにしてそのまま垂れ流している新聞各社のモラル低下が改めて浮き彫りになったといってもいいんじゃないかな。