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これからは写真中心で行きたい

原発と活断層

活断層にもちょっとうるさい俺がきましたよ*1

原発と活断層──柏崎・刈羽だけではない - モジモジ君の日記。みたいな。」経由のこれ「原子力資料情報室(CNIC) - ニュース記事」。

センセーショナル*2に「原発の直下に活断層が存在することはほぼ確実である」とあおっているのだが、ちょっと待ってほしい。

そもそも、この論理だと、ユーラシアプレートに向かって太平洋プレートやらフィリピンプレートやらが沈み込んでいっている日本列島全部が巨大な活断層の直上にあることになっちゃう。あなたのうちも皇居も首相官邸も、あのデータセンターも、そして日本列島にあるすべての原子力発電所も。


ちなみに、土木学的にも地質学的にも地形学的にも、報道されているような「断層面が地下に伸びている」状態を「活断層直上」とは言わない。なぜなら、次に説明するようにその位置関係に意味がないからだ。


普通は「活断層の直上」ってのは、「断層地形」のように地表面が断層によって食い違っている場所のことを指す。

断層地形 - Google Search

学者連中がこの「活断層の直上」をわざわざ問題としているのは、地震発生時に直接的な破壊が起きうるから。しっかり岩盤に固定してあればある程、確実に破壊される

ダムや原発が「活断層の直上」を極度に嫌うのは、万が一その活断層が活動したらどんなに耐震構造にしてあっても施設そのものが破壊されるから。普通の地震動による破壊なんかとは比べ物にならないくらいのやばさ。
だから、(いろいろ裏事情はあるにせよ)活断層が構造物(ダム本体や原子炉建屋)を横切らないか、かなり真剣に調査をする。そうして調査した結果が「活断層なし」として報告されるわけ。


だが、ここ数日大騒ぎしている「活断層の直上」は全然違う。

万が一、本震が活断層面の原子炉直下の場所で発生したとしても、それは震央が建物の場所にあったというだけ。地震の危険度としては、震源にちょっと近い点を除けば周辺と本質的に違いはない*3

活断層の直接の破壊がないのならば、地震動の力は震源からの距離だけが問題となるので、

地震震源は、柏崎・刈羽原発の北約9キロ、震源の深さは約17キロとされている。地震の余震分布等の解析により、断層面は海側から陸側に東に傾斜した分布を示し、原発の下部に向かっている可能性が示された。深さは12〜20キロメートルの規模と考えられ、原発の直下に活断層が存在することはほぼ確実である。

を全く信頼するとすれば、

  • 原発から今回の震源までの距離:(9^2+17^2)の平方根=約19キロメートル
  • もし今回の震源原発直下だった場合(原発の地点が震央だったら)の震源までの距離:12〜20キロメートル

地震動がどの程度減衰するか全然知らんが、

記者会見に同席した石橋克彦・神戸大学都市安全研究センター教授は「震源が10km離れていたことが、とても幸運だったのではないか。断層は原発直下におよんでおり、震源の場所によっては柏崎刈羽原発は約2倍の力を受けていてもおかしくはない」と指摘した。

http://www.news.janjan.jp/world/0707/0707200426/1.php

つーのはまぁ妥当な見積もりだと思うが、それだけ。「設計の見直しと補強工事で対応できます」と言われれば、もうなすすべもなくなる程度の根拠でしかない。

本当に「活断層の直上」だったら受ける力も破壊機構も全然違ってくる。そして対策も「その地点を避ける」以外に方法はない。


さらに、手前勝手に「活断層の直上」の定義を変えてその意味を過大に評価している今回の記者会見の内容は、いわゆるトンデモ系にありがちな論理展開となっている点も見逃すべきではないだろう。



というわけで、今回の活断層の分布は全然直下ではないので、設置許可を取り消す根拠にはならない
逆に各地に広がっている風評被害だけを深刻化させてしまうことになると思う。


本当なら、「活断層の存在」なんか持ちださなくても、原子炉を止めることは可能なはず。

  1. 今回の地震で明らかになったまずい対応を全部を拾い集めて、すべてについて十分な対策を講じさせる
  2. 耐震強度を今回の地震動の2倍まで耐えうるように再設計・補強を実施させる
  3. 原子炉以外の部分の強度も同じ原子炉と基準で設計・補強させる
  4. 定期検査時は原子力発電のシステムの検査だけではなく、災害対策についても検査を実施させる
  5. 原子炉全体の安全性について、地元自治体、国(原子力安全・保安院)、IAEAそれぞれから定期検査ごとに独立した監査を受け入れさせる
  6. 監査すべてに合格しない限り、原子炉の運転を認めない

っていう風にすれば、現在は「怖いけど仕方がない」と言っている賛成派・容認派もあからさまには否定できないし、なにより問題が柏崎刈羽だけじゃなくなるので、日本中の原発の安全レベル向上につながると思う。

検査と監査の連続で、原子力発電のコストもごまかしがきかないくらい上昇してしまい、いつかは原発がなくなるんじゃないかっていうのは楽観すぎるかな。

*1:もともとの専門。共著だけど論文もあるよ

*2:たぶんに戦術上の必要性にかられて

*3:用語注 Wikipedia 震源震央を参照